キリリク没原稿。話が重くなるので、一部を使い、後は削除しました。
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殺伐とした現実の臭いを掻き消すように、溢れる緑が視界を染める光景は、束の間の避難場所なのか。
豊かな自然が織り成す清浄な空気は、急いた日常とは切り離された独自の空間を維持し、訪れた者の精神をゆるりと解き放つ。
空に瞬く無数の星が、いまにも掌に零れ落ちてくるような錯覚に陥る中、湯床にだらしなく緩む手足を広げて、可能な限りのさり気なさを装いながら、彗はもっとも気掛かりな問題を口にした。
「……なぁ斎、身体はもう大丈夫なのか?」
「特に問題はないが、気になるか?」
けれどほんの僅かに言い澱んだ口調を捉えたのだろう。斎から逆に返されて、彗は言葉に迷う。
――斎の記憶を消してくれと、頼んだ事に後悔はない。
例えそれが斎の精神に著しい負担をかける事になっても、最善の道を選んだのだと、彗は何の躊躇いもなく口にするだろう。
だが――
遙が斎は施した暗示は、果たして現在(いま)も有効なのか。
時折見せる不安定な斎の態度が、彗の杞憂を生んで行き過ぎる。
「いいや、お前が大丈夫と言うなら俺は構わないが……」
決して無理はするなと言えない立場に斎を追い込んだ以上、この先に生じる哀しみも苦しみも、全て共に背負うと覚悟を決めた。
しかし現実には、苦悩の片鱗すら見せない斎の態度が、差し伸べる掌を拒絶する。
遙に引き続き斎からも必要とされない存在だと、思いたくはないが――
「どうした彗、何て顔をしている」
人知れぬ葛藤が表に出たのか。
気遣う言葉と共に、フワリと頭に乗せられた、斎の掌。
昔と変わらない、慣れ親しんだ穏やかな波動に、闇の狭間で揺れる斎の気持ちを信じたくて。
見失いそうな絆と己の価値を重ねて、彗は眼を閉じる。
「……彗?」
斎の優しい声音を聞きながら、彗は頭まで湯に沈む事で、悲観的になりがちな思考を、密かに切り替えた。
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以上が没部分ですが、いかがでしたか。
前半の文章はそのまま使用していますので、大体どの辺りかは想像がつくかと思います。
まぁ重いのは本編だけという事に、しようかと考えた末没にしました。